このようなクモの糸の優れた性質は昔からよく知られており、世界各地でクモの糸を利用するさまざまな試みがなされてきた。しかし、成功した例は皆無だ。その原因は、クモの糸を大量に生産することの難しさにある。肉食のクモのえさを確保するのは大変だし、縄張り意識の強いクモは、共食いすることもある。クモを利用して大量に糸を生産するのが難しいなら、クモの糸と同じ構造を持つ糸を人工的に作ればいい。実際、世界各国の大学や企業が「クモの糸」を人工的に作る方法を研究している。もちろんこれも簡単ではないのだが、少しずつ実用化に近づきつつある。もしこのような研究が成功するとすれば、人類は、鉄よりも強く、しかもナイロンと違って分解されやすいので、環境への影響も少ない、夢のような繊維を手に入れることになる。