零は、ラップバトルチームを組む以前からこの二人をずっと観察していたのだ。チーム結成以前には徹底した身辺調査を行いチーム結成後は常に間近で行動をともにする。そうして蓄積された観察結果から導き出された結論として、白膠木簓と躑躅森盧笙は再会してから付き合い始めたものだとばかりと思ってた。チーム打ち合わせで簓が盧笙にデレデレする度に、結婚しない理由でもあるのかね、と思っていた。簓は芸能人だから、結婚するにしても仕事の関係やらで適切な時期があるのかもしれない。そもそも家庭の事情でもあるのかもしれない。個人個人の事情があるだろうし外部がとやかくいう事ではないとは思う。しかし簓は盧笙の家に入り浸り半同棲状態だった。また簓は何やかんやですぐ盧笙にデレデレしていた。なので、もうお前らとっとと結婚しちまえ、くらいの感想は抱いていた。なので盧笙から「簓と俺?付き合っとらんで」とか聞いたときには本当に意味がわからなかった。盧笙からすれば、交際相手でも何でもない男が、連日家に侵入して泊まっていくわけである。それ駄目なやつじゃねえの?と疑問しかなかった。「簓くんいつも先生見る度に息をするように好きとかかわいいとか大好きとか言ってるクセに直接的なアクションは起こしてないとか、まさかそんなこと言わないよな?」簓は、全くもって彼らしくもないことに、俯いたまま小さな小さな聞こえないかの音量でモゴモゴつぶやいた。「正式に告白したことはない」「なんでだよ」思わず聞き返す零に向かって、ガバッと上半身を起こしバンと机に手をついてオーバーリアクション気味に簓は吠えた。「俺はこの日常を失いたくないんや」ギリギリと力んでいた簓だが、ふっと息をつく。「俺は、盧笙と付き合うとか、ぜんぜん考えんかった。いや、ぜんぜんは言い過ぎか。でもそういう発想が出なかった。しっくり来とらんかったんや。側に居れるだけで、もう幸せすぎて死にそうやった。側に居れるんなら付き合わんでも別に良かった」例え付き合っても、なんなら結婚したとしても、男女がずっと一緒にいられるとは限らない。簓自身の両親を見ていればそれは明らかだった。結婚して一生を共にすると誓ったはずの両親は、たかだか十年ほどで不仲となり子供の前で喧嘩を繰り返していた。そんな現状を目の当たりにし子供ながらに取り繕おうと必死だったあの頃は、既にぼんやりとしか思い出せない過去だ。それでもそれは、簓に結婚への不審を抱かせる一因に違いなかった。果たして形ばかり結婚することにどれほどの意味があるのか?いや無い。簓の心のうちには、そう結論づけてしまった子供が潜んでいた。